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東京高等裁判所 平成12年(行コ)269号 判決 2000年12月26日

控訴人 亡富永純承継人富永斐子

他2名

右三名訴訟代理人弁護士 松崎勝

被控訴人 生貝健二

主文

一  原判決中控訴人ら敗訴部分をいずれも取り消す。

二  右取消しに係る部分の被控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人ら敗訴部分をいずれも取り消す。

2  被控訴人の訴えのうち補助金交付に係る損害賠償請求の訴えをいずれも却下する(主位的申立て)。

3  右1の取消しに係る部分の被控訴人らの請求をいずれも棄却する(予備的申立て)。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

本件の事案の概要は、原判決六頁七行目の次に行を改めて次のとおり加え、同八行目の「1」を「2」と、同一〇頁三行目の「2」を「3」と、同一九頁五行目の「3」を「4」と改めるほかは、原判決「事実及び理由」第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

「1 本件補助金交付に係る損害賠償請求の訴えの適法性

(一)  控訴人らの主張

被控訴人は、平成九年三月一八日、鋸南町監査委員に本件補助金に関する監査請求をしているが、これより先の平成八年一〇月二六日にも同じ監査請求をし、鋸南町監査委員は、同年一二月二五日、これ棄却した。監査請求は、同一事由に基づいて再度これをすることはできないから、被控訴人の平成九年三月一八日付けの右監査請求は不適法といわざるを得ず、したがって、本件補助金交付に係る損害賠償請求の訴えは、所定の提起期間内に提起されていないことになるから、不適法として却下されるべきである。」

(二)  被控訴人の主張

争う。」

第三当裁判所の判断

一  《証拠省略》及び前記第二の一の当事者間に争いのない事実によれば、次の事実を認めることができる。

1  被控訴人は、平成八年一〇月、鋸南町監査委員に対し、本件要綱は納税貯蓄組合法一条と同施行令四条に違反しており、鋸南町において納税貯蓄組合と称せられている各組合(以下「本件納税貯蓄組合」ともいう。)に対する補助金の交付は違法な公金の支出であるとして、本件要綱の廃止を求める監査請求を同月二六日付けの請求書で行った。同監査委員は、これを同月二八日受理して監査を実施し、同年一二月二五日、被控訴人が違法であると主張する公金の支出を平成七年度分の本件納税貯蓄組合に対する組合運営補助金八五五万五三二〇円に係るものと解した上で、本件要綱に基づく組合設立補助金及び組合運営補助金は、地方自治法二三二条の二に根拠を置く一般補助金であり、被控訴人の主張は理由がないとして、当該監査請求を棄却した。

2  鋸南町は、平成八年度一般会計予算に、本件要綱二条の町民税、固定資産税及び軽自動車税の納付に係る本件納税貯蓄組合に対する組合運営補助金として三二五万一〇〇〇円を計上していたところ、町長であった亡富永は、平成九年三月の町議会において同補助金額から二四六万七〇〇〇円を削減する旨の補正予算案を提出したが、町議会は、同年三月一八日の議会で、右減額を当初予算に戻す修正動議を可決した。

3  被控訴人は、平成九年三月一八日、鋸南町監査委員に対し、本件納税貯蓄組合に対する組合運営補助金の交付は違法な公金の支出であるとして、補助金として支出された平成七年度分の八五二万円及び平成八年度分の六八五万二七九〇円について、鋸南町長に対し損害賠償を求める旨の監査請求を行った。平成八年度分の右補助金には、平成八年度予算に基づいて支出された町民税、固定資産税及び軽自動車税の納付に係る本件納税貯蓄組合に対する組合運営補助金のほかに、国民健康保険料及び国民年金保険料の納付に係る組合運営補助金が含まれていた。

控訴人らは、被控訴人は、平成九年三月一八日、鋸南町監査委員に本件補助金について監査請求をしているが、これより先の平成八年一〇月二六日にも本件について監査請求をしているから、本件補助金交付に係る損害賠償請求の訴えは不適法として却下されるべきである旨主張するが、右認定の事実によれば、平成八年一〇月二六日に被控訴人が行った監査請求は、平成七年度分の本件納税貯蓄組合に対する組合運営補助金であるところ、本件補助金は、平成八年度分の組合運営補助金のうちの町民税、固定資産税及び軽自動車税の納付に係るものであって、監査請求の対象を異にし、同一の事由について再度の監査請求がなされたものとはいえない。そして、控訴人は、平成九年三月一八日、鋸南町監査委員に本件補助金について監査請求をしたが、六〇日経過しても監査が行われなかったことは、前記第二の一5のとおり当事者間に争いがないところであるから、本件補助金交付に係る損害賠償請求の訴えは、所定の提起期間内に提起されたものであって、適法というべきである。

二  ところで、被控訴人は、本件補助金の交付が違法な公金の支出であるとして、鋸南町長であった亡富永(その承継人)に対し地方自治法二四二条の二第一項四号前段の規定により鋸南町に代位して損害賠償の請求をするものであるところ、鋸南町議会が平成一〇年四月八日に本件権利放棄の議決をしたことは当事者間に争いがない。すなわち、《証拠省略》によれば、鋸南町長であった亡富永は、平成一〇年四月八日、鋸南町が本件補助金を含む平成八年度納税貯蓄組合補助金として七〇〇万〇三二〇円を支出したのは、地方自治法二三二条の二の規定に基づき適法にされたものであるが、納税貯蓄組合法に照らしてその適法性についての疑義を一概には否定できず、被控訴人が亡富永に対し損害賠償を求める住民訴訟を提起しているので、右疑義を解消したいとして、右補助金の支出に関して鋸南町が亡富永に対して有することのあるべき遅延損害金を含む一切の損害賠償請求権を放棄する旨の議決案を提出し、鋸南町議会は、同日、これを可決したというのである。

そして、地方自治法九六条一項一〇号は、議会の議決事項として、「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること」と規定し、法令や条例の定めがある場合を除いて、広く一般的に地方公共団体の権利の放棄については、執行機関である地方公共団体の長ではなく、議会の議決によるべきものとしているところ、本件補助金の交付の違法を原因とする損害賠償請求権の放棄については、法令又は条例になんら特別の定めはないのであるから、仮に本件補助金の交付が違法であって、鋸南町が亡富永に対して損害賠償請求権を取得したとしても、右損害賠償請求権は、本件権利放棄の議決により消滅したものというほかはない。

被控訴人は、被控訴人による本件住民訴訟の提起後にされた本件権利放棄の議決は、住民訴訟の趣旨を没却するものであって、権利の逸脱・濫用であり、違法である旨を主張する。確かに、住民訴訟の制度は、執行機関又は職員の財務会計上の行為又は怠る事実の適否ないしその是正の要否について地方公共団体の判断と住民の判断が相反して対立し、当該地方公共団体がその回復の措置を講じない場合に、住民がこれに代わって提訴をして、自らの手により違法の防止又は是正をし、もって地方公共団体の被るべき損害の防止又は回復を図ることに意義があるものの、それが限界でもあって、更にそれを超えて、住民訴訟が提起されたからといって、住民の代表である地方公共団体の議会がその本来の権限に基づいて新たに当該住民訴訟における個別的な請求に反した議決に出ることまでを妨げられるものではない(同様に、議会は、住民訴訟の住民の勝訴判決が確定した後において、右勝訴判決に係る権利を放棄することを妨げられるべき理由はない。)のであって、いずれにしても、住民訴訟の提起によって当該地方公共団体がその管理処分権を喪失し又は制限されるべきいわれはない。そして、また、このような意味において、住民訴訟は、債権者が自己の個人的利益のために行う民法四二三条の定める債権者代位権に基づく訴訟等とは性質を異にするものであり、したがって、裁判上の代位に関する非訟事件手続法七六条二項の規定を住民訴訟の場合に類推適用する余地もないというべきである。

その他、被控訴人は、本件権利放棄の議決が違法又は無効であるとして、るる主張するけれども、いずれも失当であって、採用できない。

三  以上によれば、本件補助金の交付が違法な公金の支出であるとして鋸南町に代位して亡富永(その承継人ら)に対し損害賠償の請求をする被控訴人の本訴請求は、理由がないものとして、棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決を一部取り消し、右取消しに係る部分の被控訴人の本訴請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上敬一 裁判官 澤田英雄 永谷典雄)

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